夏の着物
梅雨がやたらに長かったと思えば、いつもより遅くやってきた夏は溶けそうに暑い。こう暑くては外をうろうろ歩く気にもなれず、家の中に閉じこもるせいか、日本刺繍の帯作りが進みます。あれを刺そうか、これを刺そうか、どんな色にしようか、机の上でデザインを考えるだけでもわくわくします。おかげで涼しい家の中でとても楽しく過ごしております。
この暑い夏に、浴衣ではなく、夏着物をさらりと着こなし歩かれる方を拝見すると、ああ、素敵だなぁ、、、と思いますよね。初めて着物に触れる方の中には、着物や帯は一年中同じもので、夏は浴衣しかないと思われている方が意外に多いようです。最近は、浴衣に見えない浴衣も多く、街でも花火やお祭りがなくても浴衣姿の男女を大勢見かけるようになりましたので、そう思われても当然ですが、実は夏用の着物や帯があるのです。
浴衣
浴衣は、本来は湯上りに汗を吸わせるバスローブのことで、「手ぬぐい」ならぬ「身ぬぐい」とも呼ばれていた時代もあります。温泉宿に置いてある浴衣と同じ機能ですね。
それが時代とともにいつの間にか、夏のカジュアルな外出着へと変化していきました。昭和の時代では花火や盆踊り、縁日くらいでしたが、平成の世になると、おしゃれなお出かけ着としてすっかり定着しています。
浴衣は下着(長襦袢)を着用せず、足袋も履かずに裸足で下駄を履きます。これは、洋服に例えると、Tシャツに半ズボンやジーンズでゴム草履やサンダルをはいているようなものでしょうか。浴衣での外出は、TPOさえ間違えなければ、真夏の外出着として涼しいカジュアル着です。
うすもの(薄物)
着物も洋服同様、季節に合わせた素材があります。冬は寒いので、暖かい真綿の素材があったり、当然に裏地がついています。春秋の季節の変わり目になると、裏地がついていては暑いので、裏地のない「単衣」(ひとえ)という仕立て方をして涼しく過ごします。
そして真夏ともなると、経糸と横糸の密度が荒く、透けて見えるうすもの(薄物)を着用するようになります。絹の素材の絽(ろ)・紗(しゃ)や麻の素材が登場します。
表地が透けて見える素材ですので、長襦袢も重要です。例えば、薄物の黒の下に真っ白の長襦袢を着ると、黒・白のコントラストが際立ちおしゃれですし、薄物の白い着物の下に色のついた長襦袢が透けて見えてるのも素敵ですね。
洗える夏着物
一般的に絽や紗の着物と言えば絹ですが、最近は「洗える着物」と称してポリエステル素材も多く出ています。絹は下着に汗を吸わせて、着物に汗じみを出さないように工夫していれば、 通気性がよく、想像するほど暑くありません。逆に、ポリエステル素材は、丸洗いが容易にできますが、通気性がないため、とても暑いです。
カジュアルな場で着る夏着物としては、麻や上布が大変涼しく、家でも洗えるため、お手入れも簡単です。ただし、麻は普段着なので、例え大変高価な上布の着物だとしても、お茶席のような場にはNGです。麻も上布もTPOを間違わないようにすれば、涼しく、お手入れも簡単な夏着物です。
涼しく着こなす
長襦袢にも、夏用の絹素材の絽や、麻の襦袢もあります。 盛夏に涼しげに着物を着たいときには、長襦袢も涼しい素材にするとよいでしょう。
Tシャツやジーンズから、ビジネスカジュアルな服、式典に出席できるようなスーツやワンピース、結婚式に出る服まで、洋服にも様々な素材がデザインがあるように、着物にも季節によった素材があります。だからといって、すべての種類をそろえる必要はありません。盛夏用に、浴衣以外に麻や絽の小紋が一枚あればよいこともあります。慌ててお買い物をしないよう、よく考えてから必要なものをそろえましょう。