御所車と桜、そして、乱れ箱

すっかり春めいてまいりました。梅も早咲きの桜も、一斉に咲いているように思います。今年の春は、突然やってきましたね。

実家の整理をしていて、母の鎌倉彫の作品が出てきました。乱れ箱です。平安のころ、源氏物語のお話の時代には、眠るときに女性の髪を入れたり、髪をすく際に使用したそうです。その後、脱ぎすてた衣類を入れたり、手回り品を入れるようになり、今では旅館で浴衣やタオルを置いてある光景でしか目にすることはないように思います。

その漆塗りの乱れ箱に、雅な御所車と桜の柄が彫られています。御所車は、貴族の乗り物である牛車のこと。礼装の着物や帯の柄によく用いられます。雅な王朝文化を表し、ハレの日のお召し物の柄として華やかで、お祝いの意味も込められています。季節を問わず、通年用いることのできる吉祥文様でもあります。

あくあ屋でお着付の皆様、着付のお稽古をなさる生徒様に、ぜひ使っていただこうと、実家から運んでまいりました。東京都のまん延防止等重点措置は延長してしまいましたが、季節はまさに桜。箱の中ですが、美しい桜と御所車を愛で、着物をまとう楽しみを感じてください。